体調を崩し7月の末から10日ほど入院してしまった。
久しぶりに外を歩くと、普段見慣れたはずの風景が、眼鏡を掛け違えてしまったように映る。
そうした「ブレ」を描き出す技に長けていたのが井伏だ。
彼自身、それを「写生」と呼んだわけだが、
つまり、井伏のキャンバスは真っ白い紙ではなく、原稿用紙だった。
荻窪駅前のバスロータリー、井伏が暮らした清水界隈(日大二高通り)を歩き、
普段とは違って見えるものを捉えようと私も写生を試みたが、
病み上がりのせいか、35度を越す暑さのせいか、あるいはただ単に年齢のせいか、